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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)257号 判決

埼玉県行田市大字渡柳409番地

原告

サニー株式会社

同代表者代表取締役

高木進

同訴訟代理人弁理士

首藤俊一

群馬県邑楽郡板倉町板倉3071

被告

高瀬泰助

埼玉県春日部市南栄町9番地21

被告

井上歳正

埼玉県加須市睦町1-2-20

被告

木村作二

埼玉県北埼玉郡川里村屈巣2714

被告

川辺滋秋

埼玉県羽生市下岩瀬295

被告

新井敏雄

群馬県太田市泉町1454番地

被告

有限会社臼田樹脂製作所

同代表者代表取締役

臼田善二

埼玉県行田市大字須加3808番地

被告

銀河園商事株式会社

同代表者代表取締役

野口啓造

埼玉県大里郡寄居町大字桜沢1204番地

被告

有限会社堤製陶所

同代表者代表取締役

堤秀治

埼玉県行田市佐間2-11-14

被告

星住一

群馬県佐波郡境町大字伊佐久797番地

被告

有限会社松村製作所

同代表者代表取締役

松村勇

埼玉県北埼玉郡騎西町大字外田ケ谷589

被告

矢島敏明

栃木県佐野市高橋町1978

被告

鷲尾勘二

同被告ら訴訟代理人弁護士

梅澤錦治

同補佐人弁理士

大岡啓造

主文

特許庁が平成6年審判第554号事件について平成7年8月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、考案の名称を「植木鉢」とする登録第1989175号実用新案(昭和62年11月10日出願、平成4年12月4日出願公告、平成5年10月25日設定登録。以下「本件実用新案登録」といい、その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者である。

被告らは、平成5年12月30日、本件実用新案登録を無効とすることについて審判を請求し、特許庁は、この請求を平成6年審判第554号事件として審理した結果、平成7年8月28日、「登録第1989175号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年9月20日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

植木鉢の底部を、当該底部の中央は地に接触させないよう高い位置とした中央領域と、当該底部の周縁側は地に接地するように形成された底面部と、当該底面部と上記中央領域との段差領域に形成され、高い位置の中央領域から低い位置の底面部に連なる斜面部とで構成し、

上記中央領域には、上記底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を長辺とし、当該同心円の直径方向であって、上記2つの弧状の線分の両端間を夫々結ぶ2つの線分を短辺とする変形長方形に形成された通水兼通気孔を適数個配設し、更に上記斜面部から底面部にかけて、変形長方形の上記通水兼通気孔を適数個配設したことを特徴とする植木鉢。

3  審決の理由の要点

(1)  本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  請求人(被告ら)が提出した本件考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第3号証(「いばらきの鉢花」発行者茨城県鉢物生産者協議会 戸山盛雄 昭和62年1月5日発行 215頁。本訴における書証番号。以下、本訴における書証番号で表示する。)には、横倒しされたシクラメンポットが示されているが、該ポット全体の陰影の位置および該ポットの底部の中心が上方にずれた状態で示されていることからみて該ポットの底部側の斜め上方からみた図が示されているものと認められる。そして、シクラメンポット等の植木鉢においてはその底部に孔が穿たれているものであることは一般常識であること、および該ポットの壁部が陰影を付された部分以外は白くなっていることからみて該ポットの底部の黒い点々は孔と認められる。したがって、該ポットの底部は、孔のない円形部分と、それを中心とし該円形部分から左右、上下の十字方向に伸び、底部周縁側にいくにつれ巾広となる、孔のない帯状部分と、該孔のない帯状部分と孔のない中心の円形部分との間の扇状部分とからなり、該扇状部分には、該ポットの底部を中心として描かれている同心円に沿って規則的に並べられた多数の孔が穿たれているものと認められる。

さらに、詳細に検討するに、該ポットの底部の孔のない帯状部分のうち、上方向および右方向に伸びているものは、底部の周縁最外側から中心に一定距離近い点で、その巾が急に変わっていることが認められること、並びに上記一定距離近い部分に陰影が付されていることから、該ポットの底部は、その中央が地に接地させないよう高い位置とした中央領域と、その周縁側は地に接地するよう形成された底面部とから形成されているものと認められる。

(3)  そこで、本件考案と甲第3号証に記載されているシクラメンポットとを対比すると、〈1〉 本件考案においては、植木鉢の底部の底面部と中央領域との段差領域に形成され、高い位置の中央領域から低い位置の底面部に連なる部分が「斜面部」で構成されているのに対して、甲第3号証に記載のシクラメンポットの場合、その点が明確ではないこと、〈2〉 本件考案では、孔の形状が、底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を長辺とし、当該同心円の直径方向であって、上記2つの弧状の線分の両端間を夫々結ぶ2つの線分を短辺とする「変形長方形」であるのに対して、甲第3号証に記載のシクラメンポットの場合、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもあり、本件考案の「変形長方形」に相当するものと認められるが、底部のその他の部分の孔も「変形長方形」となっているか否か明確ではない点で相違する。

(4)  上記相違点について検討する。

〈1〉 相違点〈1〉については、植木鉢の底部の底面部と中央領域との段差領域を斜面部で構成することは本件考案の出願前周知であるから[例、実願昭58-192172(実開昭60-100961号)のマイクロフィルムおよび実願昭60-30284号(実開昭61-148161号)のマイクロフィルム(甲第6号証)]、甲第3号証に記載のシクラメンポットにおいて、その底部の底面部と中央領域との段差領域を斜面部で構成することは当業者が適宜なし得ることであるし、そうしたことによる効果も格別なものとは認められない。

〈2〉 また、相違点〈2〉については、上記認定のとおり、甲第3号証に記載のシクラメンポットにおいては、その底部の扇状部分に、底部を中心として描かれる同心円に沿って規則的に孔が穿たれているものであり、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもあることから、底部のその他の部分に穿たれている孔も底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を有しているものと推認できる。

そして、該2つの弧状の線分を短辺とするか長辺とするかは植木鉢に通常求められる、土壌の流出防止と、通気、通水との兼ね合いから当業者が適宜決定し得る事項と認められる。

(5)  以上のとおりであるので、本件考案は、甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

したがって、本件考案の登録は、実用新案法3条の規定に違反してされたものであり、同法37条1項2号の規定により、これを無効にすべきものとする。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。

同(3)うち、相違点〈1〉については認めるが、相違点〈2〉のうち、「甲第3号証に記載のシクラメンポットの場合、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもあり、本件考案の「変形長方形」に相当するものと認められる」ことは争い、その余は認める(ただし、原告は、相違点は他にもあると主張する。)。

同(4)のうち、〈1〉は認め、〈2〉のうち、「上記認定のとおり、甲第3号証に記載のシクラメンポットにおいては、その底部の扇状部分に、底部を中心として描かれる同心円に沿って規則的に孔が穿たれているものであ」ることは認め、その余は争う。

同(5)は争う。

審決には、一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点を看過し(取消事由2)、相違点についての判断を誤り(取消事由3)、効果についての判断を誤った(取消事由4)違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、「甲第3号証に記載のシクラメンポットの場合、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもあり、本件考案の「変形長方形」に相当するものと認められる」(甲第1号証6頁17行ないし7頁2行、8頁1行ないし4行)と認定し、「底部のその他の部分に穿たれている孔も底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を有しているものと推認できる。」(同8頁4行ないし7行)と認定するが、誤りである。

〈1〉 本件考案にいう「変形長方形」は、長辺は、底部を中心として描かれる同心円の弧状の線分、すなわち円弧であるが、短辺は、当該同心円の直径方向であって、上記2つの弧状の線分の両端間を結ぶ2つの線分、すなわち直線であり、その結果、この変形長方形の4つの隅は、角張った形を形成している。

したがって、仮に甲第3号証の中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できたとしても、短辺が直線であるかどうか、更に、4つの隅が角張った形であるかどうか検討しない限り、本件考案の「変形長方形」に相当すると判断することはできないものであるが、甲第3号証に記載の孔は、肉眼ではその短辺が直線であり、4つの隅が角張った形であると視認することはできない。

〈2〉 そして、甲第3号証の中央領域に当たる部分に穿たれている孔と他の領域、特に地面に設置する周縁領域の孔や、中央領域の最も中心位置近くにある孔とは、その縦横の形やサイズが極端に異なっていることは、肉眼でも明確に認められる。

したがって、「底部のその他の部分に穿たれている孔も底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を有しているものと推認」することなど、できるものではない。

(2)  取消事由2(相違点の看過)

審決は、甲第3号証に記載のものが、本件考案の「斜面部から底面部にかけて」上記変形長方形の通水兼通気孔を配設した点を有していない点を看過している。

「斜面部から底面部にかけて」とは、本件明細書(甲第2号証)第5図(A)及び第5図(B)(別紙参照)に符号13Aで図示するように、斜面部と底面部との角に変形長方形を設けることを意味している。

このことは、次の本件明細書の記載及び出願経過から明らかである。

すなわち、本件明細書に「孔が水平方向にではなく、垂直方向に立つことになるから、鉢に注がれた水が底面部に留まることなく、高く設定された中央領域の下方の中央空部へと効率よく速やかに排泄(「配設」は誤記である。)させることができ、従来の鉢に較べ、極めて通水性・通気性に優れた植木鉢を提供することができる。」(甲第2号証7欄3行ないし8行)と記載されている。

また、出願経過においても、平成2年6月5日付けの第2回の拒絶理由通知(甲第7号証)において、「1.登録意匠第381332号公報(昭和49.6.5発行) 2.登録意匠第234587号公報(昭和39.6.27発行) 引用例1、2において、扇型状の変形長方形に形成した通水兼通気孔を植木鉢の底部に設けた点が記載されている。」との理由が通知されたが、原告は、平成2年9月10日付けで、本件要旨のとおり登録請求の範囲を補正した上(甲第11号証)、意見書(甲第10号証)において、「上記斜面部から底面部にかけて、変形長方形の上記通水兼通気孔」を適数個配設したことを特徴とする」こと等は拒絶理由引用の刊行物の考案には認められないことを主張したが、平成2年10月12日付けで拒絶査定を受けた(甲第12号証)。

そこで、原告は、平成2年12月13日付けで拒絶査定不服審判を請求し、平成3年2月12日付け審判理由補充書(甲第14号証)で同旨の主張をしたところ、平成4年8月19日付け出願公告の決定(甲第15号証)を経て、平成5年6月14日付けで、原査定を取り消し、本件考案を実用新案登録する旨の審決(甲第16号証)を得たものである。

(3)  取消事由3(相違点についての判断の誤り)

審決は、「該2つの弧状の線分を短辺とするか長辺とするかは植木鉢に通常求められる、土壌の流出防止と、通気、通水との兼ね合いから当業者が適宜決定し得る事項と認められる。」と判断するが、誤りである。

本件考案では、直径方向の線分を短辺とし、2つの弧状の線分を長辺としているから、長辺をいくら長くしても2つの弧状の線分の間隔は常に一定となる。したがって、土壌の流出を防止しながら、長辺は十分に長くし底面に穿たれる1つの孔の面積を大きく形成して、高い通気性、通水性を確保することができる。

これに対し、仮に2つの弧状の線分を短辺とすれば、長辺となる直径方向の2辺は、底部の中心から周縁へ向かうにしたがって、その間隔を拡大していくことになり、土壌の流出を防ぐことができなくなるものである。

(4)  取消事由4(効果についての判断の誤り)

本件考案は、その構成によって、〈1〉水の表面張力が働き難くなり、〈2〉大きな孔内空域の孔の形成することを可能にしたほか、〈3〉孔が水平方向ではなく、垂直方向に立つことになるから、鉢に注がれる水が底面部に留まることなく、中央空部へと効率よく排泄させることができるという顕著な効果を奏するものであるが、審決はこのような顕著な効果を看過している。

第3  請求の原因に対する被告らの認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

甲第3号証に記載の左下側の中央域に当たる部分に穿たれた孔において、その長辺は、審決認定のとおり、弧を描いていると認定できるものである。

そして、甲第3号証には、本件考案と同一の変形長方形が印刷されていることが肉眼で認定し得るものである。

なお、本件明細書(甲第2号証)には、4つの隅が角張った形であるとの記載はない。

(2)  取消事由2について

審決が相違点〈1〉についての判断の中で引用する実願昭60-30284号(実開昭61-148161号)のマイクロフィルム(甲第6号証)の図面(第2図ないし第4図の符号8)には、孔の形は異なるものの、原告の主張する「斜面部から底面部にかけて、変形長方形の上記通水兼通気孔を適数個配設した」ことが記載されている。

したがって、この点の原告の主張は理由がない。

(3)  取消事由3について

「該2つの弧状の線分を短辺とするか長辺とするかは植木鉢に通常求められる、土壌の流出防止と、通気、通水との兼ね合いから当業者が適宜決定し得る事項と認められる。」との審決の判断に何ら誤りはない。

(4)  取消事由4について

原告主張の効果は、本件考案のように構成したものから当業者が当然予測できる効果にすぎない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、乙第5、第6号証を除く書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点のうち、(2)(甲第3号証の記載事項の認定)、(3)(一致点、相違点の認定)のうち、相違点〈1〉、相違点〈2〉のうち「甲第3号証に記載のシクラメンポットの場合、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもあり、本件考案の「変形長方形」に相当するものと認められる」ことを除く事実(ただし、原告は、相違点は他にもあると主張する。)、(4)(相違点についての判断)のうち、〈1〉、〈2〉のうち「上記認定のとおり、甲第3号証に記載のシクラメンポットにおいては、その底部の扇状部分に、底部を中心として描かれる同心円に沿って規則的に孔が穿たれているものであ」ることは、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  本件考案について

甲第2号証によれば、本件考案が弧状の線分を長辺とする変形長方形を採用したことについて、次の記載があることが認められる。

〈1〉  「合成樹脂製の植木鉢では、在来の植木鉢に比べて通気性をほとんど有しないため、根腐れを生じ易いという問題がある。」(2欄2行ないし4行)、「無数の微小な正方形の孔を格子状に形成した鉢底では、丸穴を拡大することに比べると、成程、鉢内の土壌の流出を阻止する点では効果があろうし、土壌が乾燥しているときには、通気性も良好となろう。しかし、このような形状の孔では、一旦、水が注ぎ込まれると、土壌が湿って微細な孔を塞いだり、土壌粒子が孔に詰まったり、孔に表面張力が働らいて水の膜が生じたりして、却って、通水性や通気性が損なわれてしまう。」(2欄25行ないし3欄9行)

〈2〉  本件考案は、上記課題を解決するため、「底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を長辺とし、当該同心円の直径方向であって、上記2つの弧状の線分の両端間を夫々結ぶ2つの線分を短辺とする変形長方形に形成された通水兼通気孔」(3欄23行ないし27行)を「中央領域」(3欄23行)と「斜面部から底面部にかけて」(3欄29行)適当な個数配設したものである。

〈3〉  「本考案は、通水兼通気孔の形状を扇型状の変形長方形としてあるので、水の表面張力が働き難くなる。又、本考案の通水兼通気孔の孔は、その長手方向の軸線が弧状に曲げられた扇型状の変形長方形であるため、孔内面積が大きく孔を形成しても、鉢内の土壌の流出を防ぐことができる。」(3欄33行ないし39行)

(2)  取消事由1について

〈1〉  審決の理由の要点(2)(甲第3号証の記載事項の認定)は、前記のとおり当事者間に争いがない。

〈2〉  そして、甲第3号証によれば、同号証に記載のシクラメンポットは、底部の周縁最外側から1列目ないし3列目の各孔(以下、底部の周縁最外側からの列数で表示する。)が地に接するように形成された底面部に形成され、4列目以降がその中央が地に接地させないよう高い位置とした中央領域に形成されていると認められる。さらに、中央領域と底面部との間には、通常何らかの移行部が必要であると認められ、この観点に立って甲第3号証を更に検討すると、底部の右下側の扇状部分において、6列目ないし8列目が半径方向に1列に並んでいると認められるが、4列目及び5列目は6列目ないし8列目とは半径方向に1列になっていないと認められること(特に、4列目で顕著である。)、並びに、底部左上側及び右上側の扇状部分において、4列目及び5列目が底面部の陰に隠れた形になっていることによれば、4列目及び5列目は、本件考案にいう「斜面部」に形成され、6列目以降は、平坦な本件考案にいう「中央領」に形成されていると認められる。

〈3〉  甲第3号証に示された4列目及び5列目の形状を検討しても、その円周方向の辺(審決のいう長辺)の形状はともかく、直径方向の辺(審決のいう短辺)の形状が「当該同心円の直径方向であって、上記2つの弧状の線分の両端間を夫々結ぶ2つの線分」であると認めることはできない。

〈4〉  甲第3号証に示された6列目ないし8列目の形状を検討しても、その円周方向の辺(審決でいう長辺)の形状が「底軌部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分」であるとも、直径方向の辺の形状が「当該同心円の直径方向であって、上記2つの弧状の線分の両端間を夫々結ぶ2つの線分」一であるとも認めることはできない。

なお、審決は、「甲第3号証に記載のシクラメンポットにおいては、その底部の扇状部分に、底部を中心として描かれる同心円に沿って規則的に孔が穿たれているものであり、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもある」と認定するが、上記のとおり、6列目ないし8列目の長辺(円周方向の辺)が弧を描いていると認定できるものではなく、仮に4列目及び5列目の長辺が弧状をなしていると認め得るとしても、前記〈2〉のとおり4列目及び5列目が周面をなす斜面部に形成されていることからすると、そのことから、平面上にある6列目ないし8列目の円周方向の辺(長辺)の形状も同様であると認めることもできないものである。

〈5〉  したがって、「甲第3号証に記載のシクラメンポットの場合、底部の左下側の扇状部分であって、中央領域に当たる部分に穿たれている孔については、その長辺自体、弧を描いていると認定できるものもあり、本件考案の「変形長方形」に相当するものと認められる」と認定し、「底部のその他の部分に穿たれている孔も底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分を有しているものと推認できる。」との審決の認定は、誤りである。

(3)  取消事由3、4について

〈1〉  さらに、前記(1)〈3〉に認定の本件明細書の記載によれば、変形長方形の長辺を底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分としたことによって、孔を形成しても、鉢内の土壌の流出を防ぐことができるとの効果を奏するものであること、すなわち、逆に短辺を底部を中心として描かれる同心円に並んで沿う2つの弧状の線分とすれば、2つの弧状の線分の両端間を夫々結ぶ2つの線分を長辺とすることになり、この長辺を延ばしていけば、弧状の線分を長辺とした場合と異なり、2つの線分間の間隔が拡大して行き、土壌の流出を防止することができなくなることが認められる。

したがって、「該2つの弧状の線分を短辺とするか長辺とするかは植木鉢に通常求められる、土壌の流出防止と、通気、通水との兼ね合いから当業者が適宜決定し得る事項と認められる。」との審決の判断は誤りであると認められる。

〈2〉  そして、前記(1)の本件明細書の記載によれば、本件考案は、変形長方形の通水兼通気孔を採用したことにより、少なくとも水の表面張力が働き難くなり、孔内面積が大きく孔を形成しても鉢内の土壌の流出を防ぐことができるとの効果を奏するものである。

(4)  結論

以上によれば、審決の取消しを求める原告の請求は、その余の点ついて判断するまでもなく、理由がある。

3  よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面

〈省略〉

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